誕生

思考日記

2023年6月13日早朝。
カミさんの陣痛に、ここ数日の予兆とは違う空気感が漂う。
これは産まれる、と直感した。
が、おたおたする自分の横で、4歳の長男はまだ大の字で寝ている。
出産前の緊迫した状況下で、男は無力だ。
そこからカミさんが自ら病院に電話をかけ状況を説明すると、案の定もう少し陣痛の間隔が短くなったら病院に来るように、との指示があった。
そうして間もなく陣痛の間隔が狭まったので、車を家の前につけ、まずは眠たい目をこする長男をチャイルドシートに乗せる。
振り返るとカミさんは玄関で陣痛と戦っていたが、一旦治まったタイミングで素早く乗車。
病院まで車でおよそ5分。
早朝なので車も少なく、問題なく病院の裏口玄関に到着した。
すると、カミさんはまた連絡すると言い残して、荷物を病院の職員さんに渡し、ひとりで病院へ入っていった。
車の中にポツンと残される無力な男たち。
確かに、経産婦のお産は陣痛から平均4~6時間と聞いていたので、このまますぐに産まれるということは稀だろう。
長男も空気を察知したのか、いつもの「わがまま大王」が鳴りを潜めている。
そして一旦家に戻り、長男と朝食を済ませ、保育園へ送り届けた後、いつものように弁当販売の準備に取り掛かった。
そこから午前中はずっと、お産と仕事の天秤がどちらに落ちるでもなくゆらゆらと漂っていた。
できればすぐに病院へ戻りたいところだが、お弁当のご予約をいただいたお客様にすべてお渡しするまでは場を離れることはできない。
そんなどこかやきもきしたまま11時になり、お店をオープン。
すると、同時に受け取りのお客様が次々にご来店くださり、あっという間に完売。
13時の受け取り予約の方まで、偶然早めに来ていただいたことには驚いた。
神様は本当にいるのかもしれない。
なにはともあれ、お店を早々に閉めることができたので、カミさんに即メール。
が、しばらく経っても返事がない。
これはもしや、もう分娩中かもしれない。
そんな思いの中、自転車に乗り急いで病院へ戻った。
入館手続きやら消毒やらをさっと済ませて病棟の8階へ急ぐ。
そしてカミさんがいるという病室の前につくと、おぎゃーの声が。
あれっ、もしかして。。
思考が着地点を探していると、部屋から出てきた助産師さんが、「今、お母さんとお子さんの産後の処置をしていますので、しばらくお待ちください」と言った。
てか、もー産まれてるし。
40歳のカミさんは、高齢出産をものともしない安産だった。
産後の処置が終わり、部屋に入るとカミさんとその横で我が子が寝ていたのだが、それよりもその傍らで無造作に広がる物体に視線を奪われた。
胎盤。
長男が産まれた時は見る機会がなかったが、初めて見るそれはグロテスクさの中に神秘性を纏っていた。
再びベッドに目をやると、産まれたばかりの我が子が眠っており、自然と目がほころぶ。
その横でカミさんは、お産直後にも関わらず普通に座ってお喋りしているから不思議だ。
お産のダメージは交通事故レベルというが、大丈夫なのだろうか。
それにしても無事に産んでくれて本当に良かった。
産まれたことの感動もさることながら、母子ともに健康であったことの安堵の方が大きかったかもしれない。
問題ないと言われていても何が起こるかわからないのがお産。
まさに誕生は奇跡だ。
奇跡を起こしてくれたカミさんには感謝しかない。
こうして我が家にまたひとり、家族が増えた。






ブログ筆者/川上晶也

ブログ筆者/川上晶也

大阪の料理研究家。健康料理家。料理研究所『おとな食堂®』代表。著書『川上晶也のコロナに負けない健康レシピ手帖』(徳間書店)他、全10タイトル。

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